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桃青窯696

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50歳からのプロ・・・ここでは陶芸家らしく・・

2018年 05月 03日 ( 1 )

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「自分遺産」というブログの主宰者
g-san1101さんの紹介文を拝読して
早速アマゾンに注文し・・今しがた読み終えた

ピアノの調律師が主人公の物語だが
私の記憶の中の・・遠い日のあるエピソードが
長いこと秘かに居座っていて
g-san1101さんの読後感との対比で
妙なコントラストを描くことになってしまった

そのエピソードとは・・こうだ
40年以上昔のこと
ある日・・調律師がやってきて
私のピアノを調律することになった

子どもころから
職人さんが仕事するのを見るのが好きだった私は
許しを得て・・調律の様子を眺めていた

「かなりひどいねぇ・・こりゃ大変だ」
そもそも・・ここら辺が始まりだった
私が若かったこともあり
ましてプロのピアニストでもなく・・第一
大したブランド品でもないアップライトのピアノ
その言い方がいかにもぞんざいで
馬鹿にされた気分だったが

そこから先
チューニングハンマーを握りながら
殆ど喋りっぱなしで調律するのだ
おまけにその話ってのが・・自慢話ばかり
どこぞのホールは私しか調律させないとか
誰それさんは(有名なピアニスト)
いつでも私を指名するとか

仕事してる人に話しかける失礼は承知してるが
話しかけるどころか
口を挟む隙間もないほどに・・自慢話は続いた
いい加減辟易して
「黙って仕事しろよ!」って思っていたら
ハンマーを置いて・・終ったと言った
まるで話すこともなくなって・・終えたみたいだった

あまりいい気分ではなかったが
それでも何事もなければ・・我慢したのだが
ひとつだけ気に入らないことがあった
ご本人も少し苦労してたが
高音部のある音の音程が・・微妙に決まっていない
古いピアノだし・・仕方ないとこもあるが
何しろ自慢たらたらのマエストロ

「お願いがあるんですけれど
この音少し違ってるような気がするから
直していただけませんか?」

当然の如く・・機関銃のように言い返してきた
「私はプロだよ・・素人には言われたくないね」
多分そんな意味のことだった

でも私は引かなかった
「あなたは・・今日片づけて帰れば
このピアノのことなど・・思い出しもしないでしょう
でもね・・私はこれから先暫くの間
この音を弾く度に・・違和感を持つわけですよ
それは勘弁してもらいたから
私の気に入った音に直してください」
生意気だが・・それが正直な気分だった

「なら・・自分でおやりなさい!」
どうせできっこない・・と踏んでか
マエストロはハンマーを私に寄越した

どこをどうすれば音が変わるか
理屈を全く知らぬでなし
今日だってずっと見てたから
ハンマーを問題の弦のピンにあて・・少し絞りながら
オクターブにして鍵盤を叩き
振幅の揺れに・・耳を澄ませた
勿論・・一言も喋らずにである

まさかと思ったんだろうが
一応はもっともらしくいじった後
私なりの納得で手を止め・・「こんなもんかな」
マエストロは何も言わず・・憮然として帰って行った

ピアノという楽器は
どんなメーカーの名器であっても
調律師が精魂込めて調整しないと
本領の発揮できない楽器である
そんな楽器は・・ピアノだけだろう

その上
平均律と純正律の狭間に
微妙に揺れる音の落ち着き場所があって
それをどう生かすか
つまり・・誰の好きな音を作るか
調律師の真価は
この小説のタイトルでもある
「羊」に象徴されるハンマーのフェルトが
文字通り「鋼」の弦をどう叩くかによるから
研ぎ澄まされた耳が大事な仕事
冗舌と同居できる作業ではない

平均律というのは・・純正律の規則性から
少し外れたところにある・・最も美しくて善い音を
探して作ってほしいという・・調律師への信託なのだ
誰のために?・・言うまでもなく弾く者のためである

冒頭のエピソードに戻れば
マエストロがすべきことは
私が望んでいる音程で・・私の好きな音
それを探すためにフェルトにピンを差し
鋼の弦を締めたり解放したり
計器が測定しない平均律の
不安定な揺らぎを一点で止めて
どうぞ!・・と私に差し出すことだったのだ

小説の末尾に・・著者は
「善」も「美」も・・羊からできた言葉
どちらもピアノの中にあって
調律師が引き出すもの

そしてg-san1101さんが
「伝える穏やかさ」を感じる小説だと
記されているのは・・言い得て妙である
羊が鋼を叩くとき・・ピアノは森の中で穏やかに
誰かに何かを伝えようとするのだ

あの不快なエピソードの時に
この本を読んでいたら
もしかしたら・・陶芸ではなく
調律への道を歩きたいと思ったりしたかもである

この小説の主人公のひたむきが
実在であればな・・と願うのだった





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by touseigama696 | 2018-05-03 08:22 | ●エッセイ | Comments(2)