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50歳からのプロ(2) もうひとつの偶然

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萩の窯元で断られて・・7年ほどたった
陶芸家として人生の
終章を過ごすようになるもうひとつの偶然

以下は 2003年5月28日の
「折々の折り」に書いた一文を
少し修正しての転載である








彼女はとても酒の好きな女性だった
よく飲み よく喋った
とてもチャ-ミングな女医でもあった。 
そして 何より良き仲間だった 
 
1995年春、突然彼女は死んだ 
急性心不全 自身医師だった彼女が
先端の医術の恩恵を受けるまでもなく幽明異境に旅立った
一緒に陶芸をしていた期間は三ヶ月でしかなかったが
彼女がくれた一本の電話がなかったら
陶芸家の私はないかもしれない 
 
1994年の暮れ 突然彼女から電話が入った。 
「先輩!(彼女は私をいつもこう呼んだ)
あのぉ・・陶芸って興味ありません?」 
「あるよ・・だけどどうして?」 
 
「実は 私今通ってるんですけど 
それが水曜日の昼間なの
午後から半休とってるんだけど
やっぱり昼間は患者さんの都合があったりして難しくて・・・ 
それで先生に聞いたら
何人かやりたいひとがいるなら
木曜日の夜に新しい講座を開いてもいい・・
って言われたんです 
それでね 先輩も如何かと思って電話しました
一緒にやりません?」

「それ何処?」 
「教室はN市・・車ならそう遠くないから」 
「もしかして、その先生ってTさん?」 
「ええ 先輩ご存じなんですか?」 
 
「うん・・何年か前に紹介されて・・
実は私はとっても興味があったから
すぐにも稽古したかったんだけど
昼間の教室だけって言うんで実現してなかったんだよ。 
昼間じゃさ
君と同じで病院(私はそのころ病院の事務長だったので)空けにくいよね
夜ならできるから参加するよ。」 
 
その陶芸が始まったのは
阪神淡路大震災の正月
春にはサリン事件もあって忘れられない
あの1995年の幕開けと重なる 

事務長時代に
妻と連れだって萩 津和野の旅に出た折り
萩で見たロクロ職人の見事な手さばきに見ほれて
いつかあれをやりたいと思ってから7年ほど経っていた 
 
いろはのいの字から手ほどきを受けて
手捻りの茶碗を作ったりしていたその春 
ある稽古日に彼女は現れなかった
気にした先生が電話をすると
その電話が妙に長話になっていた

話し終えて先生は、 
「彼女体調が悪いみたい・・だから今夜は休むって
でもね・・何か気弱になっていて
それでちょっと励ましたりしてたら長話になっちゃったの」
 
職業柄もあるが 気丈で活発な彼女のこと
その気弱というのがちょっとひっかかったが
それも直ぐに忘れて作陶に夢中になっていた 
 
数時間後その稽古からの帰り道
車の中でふと思いだして 
彼女の自宅に電話をかけてみた。 
何度かコ-ルしても受話器を取る様子がない
具合が悪いって判ってることだし
寝ているのを起こしてまではとそのまま切った 
医師でもある彼女のことだから
それなりに手当はするだろうぐらいに思って帰宅したのだった 
 
翌朝 仲間のひとりから電話が入った 
「・・・実は K君が昨晩亡くなりました」 
「まさかっ・・昨夜って?」 
「今朝彼女の母親が 
定時に起きてこない彼女を不審に思って部屋をのぞいたら
亡くなっていたんだそうです・・
詳しくはわかりませんが心不全らしいとか」 
 
後にわかったことだが
自分で病院から点滴の用意までして帰宅していた 
余程の不調で それで弱気にもなっていたに違いない
 
自分が医師でなければ 救急車を呼んだだろう
皮肉な運命だった
40歳になるかならないか・・若すぎた 
 
この事故の少し前
誘われて彼女の自宅で麻雀をしたことがあった 
今思えばまだ未熟な器だったが
自分の作品に料理を盛って夜食を振る舞ってもくれた 
病院の小児科を任されていた中堅の医師だったのに
我々の仲間の集まりでは
拘りもせず酌をしてまわる気易さに人柄がにじんでた 
 
「医者の君は酌されることはあっても酌するなんて・・ごめんよ」と言うと 
「でも楽しいですよ・・こういうのって・・」 
と屈託なく笑って返す美人の医師だった 
 
亡くなったあの晩 もっとしつこく電話して
薄れてゆく意識の中で
かろうじてでも「助けて」と言えるチャンスはなかったものかと
暫くはひどく気になった 
 
一緒にロクロを廻した期間は数ケ月でしかない 
しかし
「先輩も一緒にやりません?」というあの電話がなかったら
かなりな確率で私は陶芸家にはなれてないだろう
いくら晩学といっても
52歳のあの時を更に後ろにずらしたら
趣味の陶芸で終わるしかなかった筈だ
 
その時にはそうは思わなかったが
あの一本の電話が私の人生に大きく関わったのは
紛れもない事実なのだ 
今好きなロクロを好きなだけ廻していられるのも
考えてみれば彼女のお陰である 
 
もし彼女が生きていたら
きっとこの工房にも顔をだして 
「病院も忙しいので 気儘に挽かせてもらってもいいですか?」 
と言うだろう 
 
「存分に・・やりたいようにやれよ・・」 
いつでもそう応える用意はあるのだが・・・ 
 
Commented by kumikumi50 at 2006-09-01 19:47
彼女の分まで生きていい作品を創りましょう!きっと、笑って見ていらしゃいますよ。
彼女の夢を、touseiさんが生きてあげてください。
きっと、それがtouseiの任なんだと思います。
Commented by touseigama696 at 2006-09-02 08:43
kumikumi50さん
早速にお越ししくださって・・ありがとうございます
そうですね・・そのつもりで挽きますよ
あなたのエネルギッシュに勝てそうもありませんが・・苦笑
これからもどうぞよろしく!
Commented by bull-883 at 2006-09-02 13:50
こんにちは
今回はこちらにコメントさせていただきます
縁なんですね、物凄く切ない結果になってしまいましたが
やはり人とのつながりですね、私はブログで
tetsuyaさんを知りましたが、この機会を大切に出来ればと
思います、そしてこちらのブログは大変勉強になるので
もちろん「やる」ことが大事なわけですが
今しばらくはここで想像を膨らませております(^^)
Commented by touseigama696 at 2006-09-02 14:29
bull-883さん
おお~~っ!!welcome!!

ここの窯だ行進曲・・これから中身作るけど
これてbullさんとか・・koroさん頭に描いて
そそのかしたり たらしこむコンテンツだからね
しっかと読んでおいてな・・あはは

「おねが~~い はよ粘土いじらせてぇ~~!」って
言わさにゃならんで・・あはは

そそ佳人薄命・・だったなぁ・・・
勿体ないお医者さんでもあったけどね・・
そういう運命だったんだね
っで・・その分も生きるから100までかな・・爆
Commented by どうしょう花 at 2006-09-03 21:15 x
はじめまして立川で週末作陶しています団塊世代のサラリーマンです。
工房久美さんの紹介で拝読致しました。
私も後二年で陶工になりたいとロクロを回しております。
これからも時々立ち寄らせて頂きたいと存じます。
Commented by touseigama696 at 2006-09-04 06:56
どうしょう花さん
おはようございます・・ありがとうございました
私も言ってみれば・・遅れてきた脱サラ陶工・・ですから
似たような気分を抱いてろくろを回していたことを
思い出します・・笑
陶芸を始めたのが52歳 独立したのが56歳・・
まぁ・・遅かった分・・結構根を詰めて楽しんでます
これからも楽しいおつきあいを・・
こちらも・・リンクさせていただきますね
Commented by mayu11405 at 2006-09-04 23:56
こんばんは~。
何度も読ませて頂きました。
突然の終り、この方の無念を思うと胸が痛みます。
辛い事もあった今までの人生ですが、私なりに生きてこれたことに悔いはありません。
でもこれからまだまだやりたいことだらけ、今終りが来たらきっと悔いばかりだと思います。
先のことは誰にも解らないですよね、先延ばしにしないで考えなければ。
もちろん無理はしませんよ~♪
Commented by touseigama696 at 2006-09-05 00:14
mayuさん
こんばんわ・・ありがとうございます
何かが人生に深いかかわりとなるには
そのときには僅かな予兆でも
後にそうだったか・・と頷く偶然があるものです

ひとは偶然によって生かされているんです
誰にでも偶然は起こっているのです
気づいたり・・気づかなかったり
不思議なことですね
好奇心・・きっとそれがキーワードです

陶芸教室が日曜日なら・・ってご意見
そういう希望もあるだろな・・・って反面
家庭を持った女性が多いせいか
日曜日は家族がいて出にくいって意見も多いのです

全てのひとの希望を満たすとしたら
年中無休 24時間営業かな・・笑
多分確実にセンセイが死にます・・爆
Commented by mayu11405 at 2006-09-05 23:04
はい、そうですよね、
生徒は大勢でも先生は多分お一人、体が幾つあっても・・・・。

偶然と受け流してしまうか、受け止めるかそれで進む道も変って
来るんでしょうね~。
一歩踏み出す勇気は好奇心からなのでしょうか?

まだ陶芸も始めていないのに釉薬にとても興味があります。
きれいなブルーの色はどんな釉薬なのでしょうか?
何も解らないので変な質問をするかもしれません。
笑わないで教えて下さいね~♪
Commented by touseigama696 at 2006-09-05 23:33
mayu11405さん
こんばんわ・・ようこそ

釉薬に興味があるとか・・すごいですね
大抵のビギナーは
轆轤などの造形技術に興味を持つんでしょうにね
一番地味だけど大変な釉薬とはね・・笑

ブルー・・青・・藍・の器を焼こうとしたら
色々な釉薬がありますが
基本的な青の色顔料は
酸化コバルトという鉱物粉末です

このコバルトを含む顔料という意味で
呉須という言い方もしますが
これはコバルト以外にも不純物が混在して
それが色を複雑にして
優れた色合いを生むことになります

このコバルトをどれくらいの量混ぜるかとかで
青の色合いが色々に変化します
一番簡単に青い釉薬を作ろうとしたら
三号石灰釉というのがあって
これは基礎釉ともいいますが
これにコバルトを数%で混ぜてゆけば
すぐにでもできちゃいますよ

プロは・・
例えば染付けをやるひとなら
(あの青い絵柄を入れたそば猪口などが有名でしょ)
このコバルトに何をどれくらい混ぜるかで
長い研究をしてますよ・・大変な資料になるもんね

Commented by mayu11405 at 2006-09-06 00:28
詳しく教えて頂いて、ありがとうございます~。
鉱物粉末は日本画に使う「いわえのぐ」のような物なのでしょうか?

随分前に正倉院展でみた三彩の器、千年以上経っているのに
色がきれいに残っているのを見て感動したことがありました。
あれから陶芸に興味を持ち始めました。
tetsuyaさんの作品もず~っとず~っと残っていくんですね~♪
遅くなってしまったのでもう寝ます~、おやすみなさい。
Commented by touseigama696 at 2006-09-06 09:00
mayu11405さん
おはようございます・・ゆっくり眠れましたか・・?

いわ絵の具のことに精通してるわけじゃないのだけど
鉱物の粉末ということでは重なるものもあるはずですね
弁柄などは・・共通してるよね

但し絵の具の場合はその鉱物の色そのままですが
やきものの顔料は窯の中で800度から1200度以上の高温で焼かれます
 焼いて後の発色ですから・・そこらへんは大きく違うとこですね

いわ絵の具の色の濃淡は粉末の粒子の大きさのようだけど
やきものでは使う土や 抱き合わせる釉材料
焼成温度などで発色はかわってしまいますから 
目を当てにできません・・
焼成の経験で発色をつかんでゆく技とでも・・ですよ
テストで明け暮れして掴んでゆくのです
Commented by mayu11405 at 2006-09-06 22:51
こんばんは~。
昨日は遅くまでお邪魔してしまいました、お疲れではなかったですか?
私はいろいろ教えて頂いて、楽しい時間を過ごすことが出来ました♪
私は真夏でも冷房なしでぐっすりです、地震があっても気が付かない
と思います~(笑)

釉薬は難しいようですが、そこにまた魅力も感じます。
tetsuyaさんの所が近くだったらすぐ弟子入りさせて頂くのに、ちょっと
遠過ぎて残念です(~_~;)
教室の時間のことなどで諦めかけていましたが、ここでいろいろ教えて
頂いてやっぱり陶芸をやってみたいと思いました。
もう一度教室を探してみますね~♪

Commented by touseigama696 at 2006-09-07 08:32
mayuさん
<私は真夏でも冷房なしでぐっすりです、地震があっても気が付かない
と思います~(笑)>・・とか
いいこと聞いた だったらそっと忍び寄って鼻をくすぐったり お○○を撫でたり・・あはは(品が悪かったから修正・・ペコッ!)

そっかあ・・遠いんかぁ・・ですが
でもどこででも・・やってみようって思ってくれたとしたら
それも嬉しいことで・・是非どこかではじめなよ!!ですよ
いい教室がみつかるといいね

このエキブロでも検索したら
きっといい情報もあると思うよ
Commented by mamari825 at 2006-09-07 20:59
うぅ~~、涙があふれて・・・・
陶芸を始めるきっかけって、人それぞれなんだろうとは思います。
根本には、焼き物が好きそれはみんな変わらないのでしょうけれどね・・・
障害を持った娘と将来楽しく物作りができればいいな~っと始めた陶芸でした。(今娘は、陶芸なんて知らん振りですけれど・・・)
無になりたい、何もかも忘れて、無になれる時間が欲しい。
始めた頃は、そんな気持ちが強かったように思います。
今は私の生活に無くてはならないものとなってしまいました。
私もそんな陶芸にで合わせてくれた、娘に感謝ですね。
Commented by touseigama696 at 2006-09-07 22:39
mamariさん
こんばんわ・・ようこそ!
今工房閉めてあがってきたとこです

そかぁ・・あなたにもそういう物語があったのですね
出会いひとつにしても
人生は狙い通りにはゆかないもの
しかし
予期せざる偶然がもたらすものが
人生を大きく変えてしまう・・
ということを・・ひとことでセランディピティーといいます

私のHPにあるエッセイ
折々の折りでも書いたのですが
2005年7月21日分「情報」

人生が与えてくれる偶然をどう感じて受け止めるか
セランディピティーをもたらすのは・・
旺盛な好奇心なのだと・・私は思っています

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by touseigama696 | 2006-09-01 10:51 | ●エッセイ50歳からのプロ | Comments(16)

50歳からのプロ・・・ここでは陶芸家らしく・・


by touseigama696