集中力の在り様

10㌢径ほどの小さな小鉢真ん中に穴をあけたので用途は盆栽だ一個だけなら作るも加飾もそう手間取ることはない



しかし小さくても60個並べようとすれば60個相当の大皿とも別の集中が必要になる同時にそれなりの時間も必要だから集中の質の良し悪しがものをいう


昨日から今日にかけてその60個の殆どに加飾を済ませ白化粧を打った後は必要な部分だけ釉掛けして窯に入れる
今夜はここまでの間に必要だった二種類の集中力について私見を書いてみることにした



極く大まかに言うと陶芸家の仕事は二種あるひとつは大きくて個性的な作品を作って展覧会や個展で発表することだもう一つは作家としての工夫を盛り込んで日常で使える食器や花器などを作って自営もあればギャラリーさんに委嘱してこの販売にいそしむことである



これはその大作の大皿である直径で60㌢弱糸抜きの波紋を描いている


同じ波紋を描きたくても同じ波紋なることはない陶芸家に大事な集中力のひとつは個体ごとに作家の心情を込めて今までにない個性を見つけて表現することである


こんなことをしたことこともある大皿に極細の糸を揺れずに貼るのは思いのほか難儀だが慣れて熟練するしかないことを思い知ったものだこのときの集中は如何に静かに息を止め糸を走らせるあいだ身じろぎしないことだった
大きな括りで書けば大作へ向かう心の集中は作ったことのないものを作る挑戦の集中挑んでこその緊迫感とでも言えようか


陶芸家のもう一つの仕事は小品の日用食器花器等を作り
同じ物をいつでも提供できる精度を維持することだ


この天目組み鉢は展覧会に出品したものだが覚えている限りでは径では2.0㍉以内高さは0.0㍉で規制したが30客から6客を選ぶと殆ど同寸だったと思う


日を変えて挽くと微妙に違和感があってだから一度轆轤の前に座ったら30客挽くまでは終わりにしなかった
このとき使う集中力は作ったことのある作品をそのまま同じものに作る集中だからリズミカルでなければ叶わない
手順の再現にこそ同寸同姿がついてくるどちらの集中であっても
集中を維持することが肝要なのだ　
さりながら70歳から10年の傘寿知力も筋力も驚くほどに劣化の一途をたどり覚束ない心もとなさに喘いでいる60個の盆栽小鉢を作りながらそんな感慨に浸る寒空の一日だった

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