明治は近くなりにけり

「独座観念」独り坐してもの想う老いてみれば日々になじみの仕種となる
youtubeで明治のころの東京などと古い動画を見ると自身傘寿に届き100年の歳月が最早歴史ではなくテレビニュースで見る昨日のようでしかない
暮れも迫った昨日　食器棚を掃除し終え
一碗と茶筅を取り出し久しぶりに茶を点てた誰もいない工房花も菓子もないが茶碗は自作である
そういえば何とはなしに
毎年暮れのこの時期一冊の書物と共にこの書の一節「独座観念」を思い起こす



稀代の武人井伊直弼が著した「茶湯一会集」である



井伊直弼は安政の大獄を指揮した剛腕の武人だが一方で石州流の茶人としても名を成した茶湯一会集は文人直弼の書である



・・主客とも余情残心を催し・・退出の挨拶終われば・・客も声高に咄さず・・亭主は猶更のこと客の見えざるまでも見送るなり客の帰路見えずとも取り片づけ急ぐべからず心静かに茶室に立ち戻り・・もはや何方まで参らるべきや今日一期一会済みてふたたびかえらざるを観念し或いは独服をもいたすことこれ一期一会の習いなりこの時寂寞として打ち語ろうとては釜一口のみにして外に物なし誠に自得せざれば至りがたき境界なり・・
この一文のどこに安政の大獄の壮絶な血しぶきがあるのだろう武人と文人の呉越同舟独座観念が余情残心に移ろいゆく狭間の
なんという無残だろうか
80年の人生を往復すれば160年幕末の志士たちがそこ此処にたむろしている筈大した時間ではなさそうだ
明治は遠くなりにけりというが動画で往時の風物が見られる昨今むしろ明治は近くなりにけり・・である
自服で一碗の茶を喫しながらそんなことを思う朝だった

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