健常な生・健常な死

我が家から車で5～6分のこの病院3年前の入院以来久しぶりにまたお世話になった
些か気が引ける尾籠で始まる話題だがこれも「老いゆく日々に」のひとコマあるがままに書いてみようと思う
五日前の夜仕事を終えた私にまるでからかうように妻がこう言った
「あなた　お尻にウ〇チつけてきたの？」粘土は時々間違えそうな色でズボンを汚す「ウソ？だろ！」まさかと思いながらその場で確かめてびっくり今日の工房ではあり得ない色の汚れが見えた更にトイレで確かめたそれはタール便を含め濃い赤に染まったウ〇チだった無残なことに
嗅覚を失っている私は異臭で気づくこともなかったのだ

翌朝一番で写真の病院に走った短い問診の後で「多分心配は要らないだろうけどさいわい時間が取れるからこのまま数日入院して大腸ファイバーと胃カメラ両方やっちゃいましょう」
その足で自宅に寄り着替えだけ袋詰めして入院し大腸洗浄のために薬液を飲み始めた
2時間で2ℓの下剤を飲み腸内のウ〇チを一掃してそのきれいな壁に異常を探すのだがこの2時間で2ℓは結構きつい
既に3度ほど経験してきたが老いるほどに簡単ではない看護師さんのＯＫがでるまで何と4ℓも飲む羽目になった一升瓶が1,8ℓだから3時過ぎまでかかって２升飲んだことになる下戸なればなおのことこの無茶は病い避けの願いなしには無理かも
病室のトイレに入り浸ってそのつど看護師さんにコールして色加減を見てもらうのだもはや羞恥心の世界ではない老いてこその諦観だけが慰めてくれる
夕方近くなって口の胃カメラとお尻の大腸ファイバー僅かな時間差でひとりのDR.がトンネルを完走したのだそうだ
軽い麻酔をかけてくれたお陰で苦痛はなかったが自分の胃と大腸に再会することはできなかった
「目下のところ特に問題はないけど前回は見えなかったポリープや潰瘍がないわけじゃなく今回の下血は憩室だけでなく潰瘍によるものもあるやがて癌化の可能性は否定できないので頃合をみて検査を重ねて用心するようにしましょう」
5日間の入院の結果はこうだったそれにしても
医療器械の進歩は著しい最初の病院で受けた時不安に駆られながらどんなカメラで撮るんですか？と聞くと
「そうだな潜水艦の潜望鏡あれ口ん中でくわえるようなもんようちの先生上手いから心配いらないよ」仰天したがホントに上手くて
あのお陰で後々恐怖心を持たずに済んだ大腸ファイバーはお尻からだから更に不安感は遠のく
こうした進歩のお陰で病いとの恐怖の距離感は少しづつ遠のくのだ
しかし言い換えればカメラを飲む機会が増えて治療の成果は膨らみながら同時にそれでも敵わぬ命の終焉に「ヨォッ！」て手を振る日が近づくのだ
「あのポリープとうとう本物になっちゃったね」「どうやらあの潰瘍に負けたね」etc.
それでいいんだと思う
今日の昼前に妻の車の迎えで退院したやっぱりここが私のコックピット
渾身で生きる健常な生に恵まれ・・やがて負けるべくして健常に死すもしこのふたつの健常に恵まれるなら
これに選る幸運はない
ウクライナの様子を見ればなおのことそう思う


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