Home away from home

かつてこの病院に在籍していた時代いつも私の頭から離れない言葉がひとつあった
Home away from home遠く離れていても我が家と呼べる家そんな意味だそしてこれが病院の或る一面を捉えた言葉だと私は考えていた



4日間の受診を済ませた私は昨日の5日目にまた病院に出向き昔のよしみでこの病院給食の昼食をご馳走になった実は昨日の4月1日は
この病院の開院記念日だったのだ
開院前夜の思い出は昨日書いた病院に命の灯火が灯された翌朝漆黒の闇はあの夜で終わりその後は一瞬たりともひとの住まぬ暇はないそれが病院の宿命だと感じた夜だった
あれから37年恙なく過ぎてゆく経年の記念日に赤飯を添えて厨房が準備した祝膳私にもと用意してくれたのは管理栄養士さんの好意である
患者のひとりとしてもあるいはかつての同僚の好としてもHome away from home
この言葉が蘇った


この招待を仕掛けてくれた管理栄養士の伊〇さんは同じ時期をスタッフとして一緒に過ごせたわけではないがまるで同期の桜みたいに親しみの湧く別の時間が一緒だったそれが陶芸だった私が極く親しくしている東京藝大陶芸の英才
杉沼里美さんの生徒さんそこにもうひとつのつながりがあったのだ



そもこの記念日昼食をご馳走になるきっかけは左の女性だった〇橋さんは私が在籍中にも一緒だった調理師さんである優に勤続35年のキャリア「事務長さんのこと懐かしがってますよ」「そかぁ～逢いたいな」それが昨日の再会を生んだ
更におまけになったのは「頂いた大皿明日使います　ご覧になりますか？」の伊〇さんのひとことだった



この大皿家庭では大き過ぎて使いきれない伝統的な使い方の皿鉢料理これで「さわち料理」と読むようだが大勢が思い々好きな食べ方になら向いているヴァイキング方式というやつだ病院の行事会食で使ってもらうことで何枚か進呈してあったその様子を見せてもらうのも私にはHome away from homeなのだった



私の在籍時には幸いかなコロナ禍などの不穏な事件はなかったアクリ板で囲まれた食堂は異様ではあるがそれも時代Home away from homeであるために病院職員が抱える難問は決して少なくない

病院は始めたら止めてはならないあの開院前夜の漆黒の闇の中でそれを考えたことを思い出す
あの夜があったことそしてあれから40年近く例え1秒たりと途絶えることなく連綿として灯火に火が灯され続けていることを心から嬉しいと思いながら帰宅したのだった


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