囲碁的将棋

土曜日の夕刻妻に呼ばれて夕食の時間になった終局までにはまだ間もあろうかと席を立った棋聖戦第3局　藤井聡汰棋聖vs渡辺明名人
勝負けに影響しそうな夕方から少しの間生中継を見ていたＡIの予想は80％名人有利と表示していた流石に捲土重来を期して名人もやる気だなと思いつつ急いで夕食を済ませた
自室に戻りモニターを見やって驚いた何と99％藤井棋聖の勝利とあるたかだか30分ほどの間に天地はひっくり返ったのだ藤井ファンが惹かれて止まない彼の将棋滅多なことじゃ負けないしその為なら持ち時間の全てを使っても読み切るそして逆転してみせる何も今回が初めてではない秒読みに追われてなお間違うことのない詰め将棋流石に小学生の頃からの詰め将棋名人面目躍如である
現下の最強棋士渡辺名人にもひとに勝って大事にしている名人の矜持二度同じ敗北の不名誉は避けたいはずがその名人をして為す術なく負けを認める一礼に見事な棋士魂をみる思いだった一度聞いたくらいでは到底理解しがたい勝負けの秘術
色々な解説を聞いて胸に響くものがある
日本棋院には340名ほどの棋士が在籍している将棋が強い人などという単純な話ではない340名全員が将棋の天才であって大河にザルを差し伸べ340粒の純金を集めたようなものなのだその中の最強棋士が衆目の一致するところ渡辺名人でその名人を三連勝で破ったのが藤井棋聖ということになるそれも18歳の若さでである
解説を聞きながらひとつもしやと思うことがあった
将棋は最短距離で敵将を葬むろうとするゲームであるそれぞれに可動域の決められた兵士を動かし
その狙いは敵将ひとりにある
自将を含め12人の戦士が対峙し81舛の戦場で勝ちを競う基本的には敵将の退路を断つ
それが勝利なのである
子どもの頃に多少は遊び道具だった将棋ヘボではあるが戦うことくらいはできてそのヘボでも無駄手を打つなは知っていたどの駒も敵将から目を離さず尻を叩かれれば直ぐにも手を差し出す構えそれができずにヘボはヘボのままで終わったものだ王より飛車を可愛がったツケである「飛車より桂馬を可愛がれ」
藤井棋聖ならこっちかも
この一局に限らず藤井棋聖の将棋には何で？と思う不思議がひとつあるそれがつまり敵将を見ていない兵士を時折戦場にじっとさせていることがあるのだ
このレベルでの将棋は
ヘボの比ではなく無駄手は許されまいからなにか意味があるはずだが・・さてそれは？時に解説者さえ狼狽えることがあった揺動作戦などが効きそうな相手ではなし読みあぐねて「さすが天才は違いますね・・ぇ！」とぼけて通り過ぎたりしたが
最近もしかしたらと思うことがあるこんな書き方したらブーイングされそうだが「囲碁的将棋」と思う概念である
囲碁は将棋と真反対に勝負開始前の盤面に石は置いてない0からスタートして全く同じ機能しかもたない白と黒の石を互いに一個づつ置いて敵方より僅かでも広い陣地を獲得することを争うだから左下辺りで競っていたかと思うとどうしたの？っていうくらい唐突に右上隅に石がきてしばらくは孤高の時間を過ごす最短距離でも最短時間でもなしに遠大な目論見に向かう予見を披露したりするのだ勿論ザルがすれば孤高の石は無駄死にするそこが勝負の分かれ目になるのだ
「囲碁的将棋」とは最短を是とせず遠大な投網の中に敵将を追い込む一手探しを大事にするそんな哲学の違いを感じさせるのが藤井クンの将棋なのではと思ったのだ
それはある解説者の解説に潜んでいてなるほどと痛感したからである解説者はこんな意味のことを言った
「御覧なさいさっき藤井棋聖が備えに置いた駒が
何とはなしに意味を失いかけたころ名人が王手と同時にこの駒の働きを封じるために自分の大駒で取ったけれど結果的にはその動きで棋聖の王将は逃げ道ができたことになりそこから先一気に敵将に王手をかけ続けることに貢献してしまったそうとも言えそう・・」
難しくて正確な解説はできないが91枡全てを使って退路を断つそのための布石をかなり手前から施そうとしたのが従来の定石からは「？」と思う着手が生まれたのかそんな気がしたのだった
あらゆる分野でのコラボレーションは新しい戦略戦術の宝庫足りうる囲碁と将棋が互いの異質のエッセンスの中に自分に益するものがあるかもと思う意外性既に始まっていることかもしれないがわくわくする展望でもあると思うのだ
藤井棋聖のロマン更に大きな夢を作ってほしいものである

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