紀房窯

60㌢に届きそうなこの大皿に細密なアラベスク紋を搔き落としたのは小原さん20年前に私の教室に入会した生徒さんだが去年からはご同業の陶芸家私の教室からはじめて巣立ったプロ陶芸家である




昨日小原・金井さんがふたりで窯を訪ねて来た新しい作品を持参で色々意見を述べた公募展の時期が来つつある

去年の3/18のこのブログでもご紹介したが半分定年を機に自宅敷地内に工房を新築しコロナ禍にも慌てず騒がず多分休日の殆どは公募展目指した大物制作に明け暮れたに違いない陶美展での入選を弾みに更に挑戦の日々が続いてる


きっと彼ならプロ・レベルに届く・・20年のつきあいで直感したことだったがその理由の幾つかは同じ道を歩こうか思いつつも躊躇いに惑う同好の士には参考になるかもしれない

①・・時間は空くものではなく作るもの作った時間だから大事に使う気になる20年の間の一時期
彼は地方の支社に勤務だった時代がある普通は長期休みか退会が多いしかし彼はその2年間も通ってきた週末の帰省を利用して教室にも顔を出したのだ家族との時間でもあるから作った時間の価値は大きかった筈だ
②・・正しい鉛筆の持ち方が出来ないときれいな字は書けないよ小学生のころ恩師から諭された一言だったが同じことは芸事にもある基礎を疎かにして先を急ぐと上手くなれないよ彼はじっくり腰を据え
今身に着けておくべきことから目を背けなかった
③・・望んでいること以上のことはできないもんだ願ってることが小さければ
もしかすると早い時期に叶うけれど先を急いで得た結果は決して長持ちしない当てのない完成を目指す長い時間に耐える力はきっと我慢なのだ

④・・気の遠くなりそうなことで気が遠くなったひとはいないだから気が遠くなりそうなものに出会ったらチャンス！と思うべきだ優品に触れて感じることはどれもどこかで気が遠くなりそうなことをきちんと乗り越えているということだ難しいことがあっさりと出来る秘訣はそれこそ気が遠くなるほど繰り返したひとだけが知っている

搔き落としの技法は先ず大皿を挽いて少し乾いたころを見計らい白化粧土を全体に吹きつける全体は白く見えるようになる
予め全体の構図を細部にわたって画紙にレイアウトしそれを原寸大に複写してトレーシングペーパーだったり細部は更にフリーハンドを使って皿の上に紋様を書き写すこの段階ではまだ生土状態で乾燥との時間勝負急げ！である
紋様に添って白化粧土を搔き落として下から赤い土が見えてきて紋様が顕在化するのが搔き落としなのだ茶に見える部分が作家が細かい道具を駆使して白化粧を剥離させたことになる
想像していただけることだろうがともかく細かくて手間のかかる作業である8割がた作業が進んだあたりで生土のままの皿が割れたりしようものならそれこそ絶望的な気分になる

それでも我慢して繰り返しやがて作家と皿が同居する世界が見えてくるのだ
①～④はこれだけで充分とは言えないことだがそれでもこれなしに大成することも難しそうひたすらに気が遠くなる瞬間を待ちながらしかしその努力をした者だけが覚醒の悦びに出会えるのではなかろうか
小原さんが辿って来た道が新らたな人々への指針になればと密かに願うのである
教室時代を通して生徒さんに話したことのもうひとつ
「プロになれよ！・・と言うつもりはないよでもさプロでも通るね！・・は悪いことじゃないな」


小原さんの故郷は紀州紀房窯とは言い得て妙である
写真でご覧に入れたアラベスク紋はどこかのモスクからの複写ではない小原さんのオリジナルなのだここにどれほどの独創を持ち込めるかそれも大きな課題だよと
昨日もそんなことで話しが弾んだのだった紀房が・・希望であれかし！

応援してくださる方・・クリックしてね！