今だから法隆寺

この土壁の前に佇めばいつでも斑鳩の空に天平の時が流れ万葉が語り部となる
あをによし奈良の都は咲く花の匂うがごとく今盛りなり


蟄居同然の日々のなかでもし叶うならひとしきり訪ねてみたいのは此処


ここに人混みができたのを見たことはない風の音が聞こえなかったこともない多分鳥の囀りも同じだったはずだ


だからここを訪ねた幾たびは日がな閑さに浸りきるのだった


この佇まいにじっと目を細めれば輿が引かれ牛車がそぞろに歩む居るだけで穏やかな心が蘇る


そんな気分に浸りたい時少し若かった頃は思いつくまま車にシュラフを積み夜通し走って訪ねたこともある


玉砂利を踏みしだく音が誰もいない証影が動かないのも同じこと


夢殿に相対すれば太子の息遣いが聞こえそうだ
壮大な境内のあちこちに佇み天平の夕まずめを見る


時にこの築地塀に沿って家並に向えば法輪寺　法起寺　慈光院と所縁の寺が続くこれがまたいい
長くなるからそれはいずれ別項で


奈良は京都とは違う改めてそう思う遠い遥かなる昔日があるがままに其処にある
奈良は老いたが生きている
とりわけ私にとって法隆寺は別格なのだコロナが静まってくれたらもう一度訪ねてみたいのである
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