狭い道

この一週間殆どの時間を工房に居て素焼き済み分に糸を貼っている
ロクロ挽きから素焼きまでに比べれば圧倒的に手間のかかる作業だから同じようなことを限りなく繰り返す仕事って案外そういうものなのだ


もしこれが趣味だったらきっと飽きたりするにちがいないそして目新しいものに目移りするかもしれない
何故飽きないのか？と問われたら「仕事ですから・・」とか「もっと上手く作りたいから・・」とか真っ当な理由があっていつでも納得してやっているからとでも


「プロの陶芸家って陶芸のことなら何でも知ってて何でもできるって思われてるみたいだけど案外自分の仕事一つ分のことしか知らないし何でも教えられるわけじゃないよ」ある高名な名手がそう言って苦笑いした

その当時はそんなものかとやや腑に落ちぬままに半信半疑だったが今ならそだな・・と思えなくない
陶芸にプロアマを区別する資格は何もないそれでいて何となくプロにプロらしさを感じるものがあるとすれば
星の数ほどありそうな様々な陶技の中で僅かでも自分らしさの独創に手が届きそのアイデンティティーこそが狭き道を遥か彼方まで歩かせてくれる原動力だと自覚できた一人を云うのではないだろか
自分の仕事のことしか知らないとはそれ以外を考える暇もないほどに道は狭く時の流れの短いことを否応なしに思い知らされるからだ



陶芸教室を併設していた時代仕事としては手を出さない分野を教室のために試してみたりは今思えば新鮮な刺激であり学びでもあった
独りに戻った数年前私の仕事と無縁な材料の殆どは処分した残ったのはわたし独りのためだけのものもしかしたらプロの自覚はそのときに確固としたそうだったのかもしれない
頂いたオファーに応えるため狭い道に視野を固定し出来ることをもっと上手く無数の繰り返しの中で「これしか知らない」をもう少し上手くなってみたいと思う



土は二種類　釉は一種窯は電気に絞りそれも酸化炎だけ加飾の糸をたっぷり手許に置き
微かなヒントに敏感にはなるがでもそれで自作の全てを自家薬籠中とは
到底思えていない

焼けばこうなる予定の茄子紺木賊紋花器
5本分の糸貼りは素焼きの窯を焚きながら明日の準備と並行しての一日掛かりの狭い道中だった

応援してくださる方・・クリックしてね！