アナログ礼賛

時々思いついたように我が家に残る古い記録を見直したり整理したりする僅かなことだが当代の責任のような気がするからだ
「当代」古いなぁ～！自分でもそう思うだけど死んでしまった親たちと私の後を生きる子供たちの間でみんな家族だったことを伝え継ぐ責任はきっと私にある


こんな手紙がでてきた私が在籍した映像プロダクションの社長が私の妻に書き送った手紙　これは多分1969年の暮れのこと
既に故人になられたが私の人生を通してそれぞれの時代に何人か上司はいたが心底ボスと呼ぶのは彼ひとりである
手紙にはこう書いてある
「いよいよ年の瀬もすぐそこに迫ってきましたその後ご機嫌はいかがですか？よい年をめざしご一家の繁栄をお祈りして些少ですが同封させていただきました当社はチビッコ会社なので賞与の類は本来ないというキビシイ約束になっていますが皆様が力をあわせ成績を上げた場合は問題外です
何としても報いなければなりませんこんどの賞与で一番幸せなのは出すことができた小生だと思い感謝していますこれもご主人さまの健闘のおかげまたご主人をサポートくださった奥様の力とあらためてお礼を申しあげますこんごともダンナ様を大切にまたその1/100でケッコーですからときには会社のことを思い浮かべられておひまの節はどうか遊びにおいでください」
毎年送られてくる直筆の手紙は同様の労わりであり激励だったその都度賞与とは別に何某かの日本銀行券が同封され亭主に美味いものでも食わしてくれなのだ
妻あての手紙を読んだ妻は「・・そうだって！だからイッショケンメイ働いてね！」
アナログ満艦飾の時代のボス年中一緒に仕事してたし喧嘩もどきの議論も珍しくなかった一緒に徹夜もしたが飲んだり食ったりも一緒だった
だからとチカラこぶを入れて言えば職責や職能を越えて全人格的に信頼する気持ちが芽生え俗に云うやる気になる根拠が生まれたのだアナログ時代の最後の申し子世代昨今の世の中を眺めていて「今じゃなくてよかった！」心底そう思うのだ
肉筆と活字　生音と録音結果は同じでも漂うものは全く別だ時代からの反論は承知の上でアナログの良さは効率ではない
アナログの良さは徹底にある
活字では本音は読めぬ録音には編集のウソが混じる効率ではなく徹底だけが長い時間をかけるムダの中から仕事の本懐を嗅ぎ取ってくれると私は思ってきた
コロナ禍以来時代は急速に変貌を遂げつつあるデジタルの行き着くまでの超高速の旅が始まったようだ到底ついて行けそうにないが願わくば孫子の代に「これはこれで好い時代だね」そう言えるようであってほしい


1969年の晩秋のパリの早朝カメラマンとふたりで歩いたシャンゼリゼ
今この写真を撮ろうとしたらスマホにひとこと書いて送信してもらえばあっという間だが1960年代はそのためにパリまで行った好い時代ではなかったか？カメラではなく人間を肥えさせてくれたのだ
今はなきボスは特段にパリが大好きで訪ねる度にスキップして歩いてた「なに？パリでの仕事　いいねオレも行きたいなどんどん行ってこい！一杯仕事していっぱい遊べ全部血肉になるぞ！なにかねのこと？それっくらい取材費から捻出する工夫しろよ」
この手の話しは目の前で顔色見ながらでなきゃ云えないメールじゃどうも具合悪そうだ双方とも証拠が残ってしまいそうであるデジタルの窮屈さ何となく臭って避けたくなるのはそんなせいもあるかもしれない

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