窯だ！行進曲 「用と美」

数日前　「陶芸は十芸」と語呂合わせで思いつくままの陶芸感を載せた4年ほど前に陶芸の専門誌「陶遊」で2年連載していただいたエッセイの一項である
既にアップしてしまったのにふと近頃著作権の保護制約はどうなってるんだろ？幾ら自分の原稿でも出稿すれば著作権の移行もあるやもしれぬ失礼があってもまずいなと旧知の編集長さんに電話して尋ねたら「大丈夫ですよ・・どうぞ！雑誌の宣伝しておいてくださいね」だった
そこでつい甘えて少々加筆補筆の上もう一項再掲させていただくことにした最近は目の前の仕事として取り組みながらしばしば考えに耽る課題でもある-------------------------------------------------


窯だ！行進曲　第11回「用と美」173号2019/JULY
＊用と美名工の手になる絢爛の壺をご覧になれば
大抵の方は素晴らし美術品と仰る勿論間違いではないが美術・工芸という分類に従えば絵画は美術で陶芸は工芸に属する「素晴らしい美術品」と「素晴らしい工芸品」の違いはなんだろうかそれが今日話題にする「用と美」である
＊美術と工芸絵画を代表とする美術と陶芸が属する工芸を論ずるときに外すことができない「用」とは言うまでもなく使えること即ち美と共に用途のある作品ということであるどんなに魅力的な美しさを秘めていても茶を点て喫することができなければ茶碗ではないそれが工芸であり
純粋に視覚的に鑑賞することが本位であり限界でもある美術の絵画と区別する違いである平たく言えば絵画に刺身を盛ることは絶対にないのだ
＊日々の用絵画に視覚的な美しさを見るのは理解できてもやきものの用途が持つ美しさとはとなると理解に苦しむのは不思議ではない用途は姿でも色彩でもないからだ
そこでこんなことを想像してみてほしい日常使いの飯茶椀と湯呑みを目の前に置いたとしよう見た目の美しさは脇に置いて使い勝手の良し悪しを考えるとこんなことが言える

飯茶碗の場合　手に取った瞬間に何を感じるかだが「重い！」「軽い！」どちらも不出来であるこの先食事の度に重い軽いの感触が手に残る一番望ましいのは持っていずれも感じないことだそれを手取りが良いという一箸ごとに口元まで運び上げる茶椀重かったら億劫にもなるやや軽めが望ましいかもしれない
ほどほどの大きさでやや薄目に挽けばそうなる手取りは目盛りが知らせる計量ではない
感覚に語りかける加減のことなのだ

一方湯呑みとなるとまた少し違う茶碗同様重くも軽くもなく作っても気にかかる問題が残るいざ茶を喫しようとしたら
耳たぶに手をやりアッチッチかもだ手取りの良さは熱湯に不向き汲みだし茶碗に磁器が多いのは頷ける煎茶に熱湯は不要だからだそうしてみると用の美とは使い手への心優しい気遣いが前提になる熱い番茶ならやや肉厚にである

＊気遣いの美学用途が決まっている以上作り手の勝手にできない制約を考えれば陶芸は技術だけで作れるものではない
使い勝手に精通した上で器が使い手に提供する魅力は何か限りなく精神性に傾く思考の中に用の美が潜むに違いない
階段のステップの高からず低くからず同様自分の呑み分にピッタリな酒器とか大事な敷物でも心配せずに済む急須の水きれの良さとか茶碗の裏の高台が左手の指の輪にすっぽり収まって滑らない安心感とか使い勝手は作り手の手練れが支える気遣いの美学の為せる技なのである
＊バーナード・リーチの言葉「役には立つが美しくない陶器と美しいが役には立たない陶器があるどちらも正常ではない正常なのはこのふたつが調和した陶器である」
用の美の主唱者のひとりイギリスの陶芸家バーナード・リーチはこう言ったこの短い一文の中に用の美の難しさが過不足なく書かれている
そもそもやきものの原初に美学はなかった用だけがあったのだそして長い時間を経て人々は次第に使わねば分からない美しさを知ることになる
徳利から注がれる酒がトクトクと音を立て杯を満たすその音も徳利であり徳利の美しさなのだどんなに美しく描けても
油彩のせせらぎが音をたてることはないキャンバスに用は不要だからだ
美術と工芸の狭間に横たわる用と美それは優劣の問題ではない美の在りようのことなのだ陶芸に脈打つ「用の美」を大事にしたいものである

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