Only oneのふたり

この５枚の絵は彼独自の画材と技法で描かれた油彩画発色の美しさとその透明感この絵を見て嫌う人はいないとりわけ圧倒的な女性ファンに囲まれた画家である



人生の半分以上をスペインで暮らし彼が惹かれてやまない色彩と情景を描き続けてきた絵を描くだけでなく文筆にも才を発揮し画集はそのまま秀逸なエッセイでもある


掲載した絵は何冊かの画集からお借りしたものである



石井クンは東京藝大の卒業生ではあるがだからといってアカデミック一辺倒の画家ではないご覧になれば？？だがスペイン滞在中はジプシーと一緒になってテキャ暮らしもしている彼の絵を彼は風景画とは言わないひとがいてこその情景を描きたいと言うそれが彼の願いであり終生のモチーフになったようだ大方の絵に人や馬など生きものが一緒に描かれているのは風景なら不要でも情景では必要だったからだ
藤本能道教授の指導のもとで工芸科に入学した彼は当然だが陶芸も勉強している



アトリエの裏庭にある古びた小屋には今も彼が使った窯の残骸が置いてある捨てがたい思いもあろう



その窯で焼いた彼の作品の幾つかがこれ弁柄を筆で巻いて灰釉で焼いたものだろうかしかし考えて見れば焼きものには絵に見るような具体的な人間臭は乏しい絵に転じた由縁はそこら辺にもあったろうか



前置きが長かったが石井崇クンと私は実は中高の同級生６４年前に出会ってからの長いつきあいである母校には数えきれないほどの秀才が溢れていたからナンバーワンの座は誠に容易なことではなかった今にして時どき再会すれば語らうこともあるが「・・でもさオンリーワンってところが盲点だったよな！」３００人いる同級生の中で画家は彼ひとり陶芸家も私しかいないのであるこの学校の良さはこうした一点ものも評価し応分にリスペクトしてくれる有難さにあるそれが二人の共通の認識でもある





雨ふりの祭日の土曜日晴れてれば渋滞もしようかと早朝に娘の運転で房総半島の南端館山に向かった妻も同行の三人もひさしぶりのことガラガラの道を車は快走して迷惑なほど早く着いてしまった
「早すぎるよ～ぉ！」笑いながらそれでも近くのレストランで海を眺めながら朝飯をご馳走になった
石井クンのアトリエを訪ねたのは予てから娘が「石井さんの絵がほしいからお邪魔してみたい」といってきたことが実現したからだった
私は何度も訪ねているが先日の台風で苛められたと笑って嘆いていた広い庭ではときどき地元の人たちが集まって彼が得意なパエリアを振る舞うパーティーなどもあるから手土産代わりに皿を一枚持参で使ってもらうことにした



画家自らの解説と助言をもらいながら娘は新たに購入した自宅マンションのこことあそこにとでも決めてだろうか二点の作品を買い求めることになった
折角の訪問だから息子一家にも私から一枚贈ることにして彼の勧める小品を頂いた
おまけに手土産の皿への返礼としてとかで彼が選んだ一枚をプレゼントされた


妻の好みのままのこの作品帰宅して早速彼女の自室に掛けてこの通りベッドから鑑賞できると大喜びなのだった
しかし考えてみればオンリーワンが二人でその「ワン」を互いに交換したことにはなるが世間でいうところの定番でなら海老で鯛を釣ったことになりそうだ
どっちが海老でどっちが鯛か言うまでもないそこは友情のしからしむるところ只々多謝としか言いようはない



私の自室には以前からこれが掛けてあるこれで家族全員に行き渡ったことになり石井ワールドの中で過ごすことになった穏かで優しくてそれでいて人のいる場所のひとのいてこその情景に強い思いを馳せる彼の生き方を密かになぞる思いで帰路に就いたのだった
半日の訪問の最後に「館山にくればヤッパリ魚だろ」昼食もご馳走になってしまい久しぶりに好物の鯵の叩きを食べた忙中閑の嬉しいドライブだった



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