人気ブログランキング |

彫刻の鼻

d0085887_14151862.jpg
タム9の「しずく」 遠い日に  

------------------------------------

ある誇り高き彫刻家のはなし

功成り名を遂げたさる人物の依頼で
その胸像の制作を依頼された

暫くして制作途中を見たいという申し出で
粘土の原型を見せることになった
暫く凝視していた依頼主は

「実に見事です 我が身のことといえ
よく似て作られています ただ一点 
私の鼻はこんなに高いでしょうか?」
と感想を述べた
その物言いは恐縮しつつも言外に削ってほしいと
言わんばかりだった

束の間の沈黙が流れ やがて
作品の前に立った彫刻家は
手にしたヘラでスーッと鼻を削った
粘土の粉がパラりと下に落ちていった

「こんなもんでしょうか?」
「そうそうこんなもんですよ 私の鼻は」
依頼主は満面に笑みを浮かべた

これだけの話だが
これだけの意味ではなかった

彫刻家は 
暗に鼻を削ってほしいと言われた瞬間
こんなことを考えていたという
「作品に対する自分の芸術的良心に従えば
これっポッチも削りたくはない しかし
毎日これを眺めて暮らす依頼主にとっては
鼻の高さが気になって仕方ないのも気の毒である
削っても削らなくても両者の満足を満たすことは出来ない
さてどうしたものか?

咄嗟に彫刻家は身近にあった粘土の削りカスをそっとつまみ
鼻先を削る素振りでパラリと落としたのだ
その様子を見ていて 
低くなったように思える我が鼻の高さに満足し
依頼主に笑みが戻ったという
「そうそうこんなもんですよ 私の鼻は」

信念は人間にとって大事なもの
もの作りにとっても同じ
しかし この世の中を
たった一人で生きているわけじゃないから
人とひとの関わりの中で 時に
現実的な解決に迫られることもある
自分のためだけでなく さりながら
他者のためばかりでもない解決

このエピソードが物言う裏面では
そうした機転を教えてはいないだろうか
芸術的良心 思えば深くて難しいものがある


d0085887_15441352.jpg
黒天目鉢 旧作




応援してくださる方・・クリックしてね!!

名前
URL
画像認証
削除用パスワード
by touseigama696 | 2019-03-26 15:59 | ●エッセイ | Comments(0)

50歳からのプロ・・・ここでは陶芸家らしく・・


by touseigama696