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逆説的真理


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東京に聖路加国際病院という大きな病院がある
聖書の聖人ルカの漢字表現で聖路加と書いて
一般的には「せいろか」と読んできた

今はすっかり新しい病舎になっているが
1995年のオウムサリン事件の際は
ここがまるで野戦病院のように
礼拝堂まで使って数多くの被害者の治療にあたり
世論の感謝と賛美を得た病院だった
あの有名な心臓内科医の日野原重明博士が
陣頭指揮を執った時代である

私は20代の終わりごろ機上で心臓発作を起こし
アラスカで一ヵ月入院したことがあったが
その後遺症で心臓神経症に悩まされた時期がある
亡父の紹介で受診したのが日野原博士で
短い期間だったが聖路加病院に通ったのだった

その時に今も忘れることのない思い出がある
病院の本質に関わる大事な考え方を学んだのだ
後に40代になって自分が病院事務長に就任したが
在任中肝に銘じたある言葉はそのときのものである


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この病院の旧舎はキリスト教系の病院だったから
どことなく礼拝堂の中にいるような感じで
患者が座って待つベンチも木製で質素なものだった

少し通いなれたころのこと
顔なじみになった看護師(当時は勿論看護婦と言った)さんと
立ち話をしながら

「この木製のベンチお尻が痛くなりそうですよ」
つい軽口を叩いてしまったのだが
返って来た言葉に恥じる思いを晒された
看護師さんはこう言ったのだ

「確かにこのベンチ少し硬いものね
でもこの病院は
あなたのお尻が痛くなるほど長い時間
お待たせすることは決してありません
だから質素を許してね」

これは言ってみれば「逆説的真理」である
質素な椅子は患者には思いやりに欠ける設えと
思われそうだが
実は病院が果たすべき本質的な患者への労わりは
柔らかな椅子を提供することではなく
いち早く診療を済ませ待たずに帰宅させることだ
こっちの方が遥かに大事なもてなし
つまりHospitalityというわけなのだ

こうした逆説的な真理を追究する習慣を失くしてはならない
事務長在任中いつもこのことが頭にあったが
言うまでもなくこの時の看護師さんのお陰だった

お断りしておくが今の聖路加国際病院は
決して木製の質素なベンチではない
一流ホテルなみの設えなのは
HPでも見れば分かる
でもきっとそれで良しではなかろう
あれから50年今はお世話になることもないが
Hospitalityおもてなしはきっと今も生きてるに違いない

この話には後日談がある
後になって会計処理や薬剤処方に
電光掲示板ができて番号表示をするようになったが
その器材を売りに来た業者さんに
私は断った覚えがある

「だって表示番号見てれば自分の番が近いって
分かるじゃないですか便利だと思うんですが・・」

私の答はこうだった
「この病院の場合 患者さんが診察室から出てくる頃には
会計も処方も出来てるから表示する必要ないんだよ」

どうしてそれができたか?
「ナ・イ・シ・ョ!」




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Commented by mother-of-pearl at 2019-01-30 17:18
「この病院の場合 患者さんが診察室から出てくる頃には 会計も処方も出来てるから表示する必要ないんだよ」
そんな夢のような病院を実現なさっていたのですね!!
何故、後に続く病院が無いのでしょう。
一箇所だけでも実現できていた事実を心強く思います。

少ない経験ながらアメリカの医療保険制度、医療機関の実態、医療技術のバラツキを経験した身には、それでもこの国はずっとずっとマシなのですが。


Commented by touseigama696 at 2019-01-30 18:19
mother-of-pearさん
読んでくださってありがとうございます
久しぶりに入院して病院を考える機会になりました
よくできた病院でしたがそれでも 
まだまだ考えてほしいと思うこともあります
そうしたことに少し触れて見たくて
ナ・イ・シ・ョ!のことも書いてみます(笑)
Commented by mother-of-pearl at 2019-01-30 18:37
ナ•イ•シ•ョ!のお話、おねがいいたします。全国ネットで公表して頂きたい程です。

(聖路加のターミナルケアで最近若い友人を亡くしたばかりなので、あの病院の優しさを知ることができ救われました。)
Commented by touseigama696 at 2019-01-30 21:16
mother-of-pearlさん
ありがとうございます
書いてみましたよ 
ご一読いただければです

その気になって
患者本位の意味の逆転だけを避ければ
昔と違って素晴らしい
システムをつくれるはずです
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by touseigama696 | 2019-01-29 21:55 | ●エッセイ | Comments(4)

50歳からのプロ・・・ここでは陶芸家らしく・・


by touseigama696