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豚児庵遺言(2)

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(2) 糸抜き技法 13/04/17

「こらっ!・・ぶっ殺すぞ!!」
悲鳴のような急ブレーキがかかって
運転手の怒声が聞こえた

一瞬は訳が分からなかったが、すぐに分かった
赤信号の交差点の真ん中、青信号のダンプが停まったのだ
夢中で考え事してて、まるで気づかずに渡っていた

集中してたなどで言い訳はきかぬが
それほどに自分の仕事に飢餓感があった
10数年前のこと・・

誰のものでもない自分のもの
これを見つけることの難しさは
言葉にできぬほどに苦しいものだ

「うん?・・これってもしかして?」
不意に思いついた技法らしきものを
まるで棋士が手を読むように先を考え始めると
親切な運転手でもないと、幾つ命があっても足りないわけだ

それでいて、大抵の思いつきは
後で図録などで調べてみると
どなたかの仕事の中に吸収されてるものなのだ

この時、頭を巡っていたのは
染織の表現のひとつ、江戸小紋の染めのことだった
遠目には無地だが、近寄れば細かい紋様
京が絢爛なら江戸は粋、そこらへんが好きだった

江戸小紋のような緻密な紋様を
伝来の伊勢型紙を使わずに器面に打てないものか

例えは悪いがチャーシューを作るように
細い糸でぐるぐる巻きにして上から染める
試したこともあるが、壺ならできても皿では出来ぬ
そんなことをあれこれ考えていてのダンプだったのだ

他人事でなら・・
こうした伝説的なエピソードを聞くことはある
あのミスターこと長嶋選手は、
野球のことを考え始めると、右はスパイク左は革靴
それくらい屁のかっぱだったとか

似たことが自分にも起きた
50歳も過ぎてからのことでもあれば
それはそれで夢中の証拠でもあるから
悪いばかりのことでもあるまいと思ったものだ

不思議な偶然はここから始まった

ダンプ事件からほどないことだったと思う
江戸小紋のことはまだ頭から離れがたく
だからといって、活路は見えず焦ってもいた

たまたま銀座に出かけた折に
ふと文具の伊東屋に立ち寄った
若いころ、テレビ時代だが、
近くに私の会社があったせいで
便利に使っていた文具屋さんだった

買いたいものがあったわけじゃないから
最上階からゆっくり眺めて下りた

「曲がるテープ」、手書きのPOPが目に止まった
「ん??・・曲がる?」
確かに一般的な紙テープは曲がらない
これが曲がるというのは何で?

何種類かある幅の中で一番細いテープを
5~6本買ってみることにした
確か1本が4~500円、安いものではなかった

帰宅するや素焼き済みの大皿をだして
0.5mm幅のテープを闇雲に
1.0mm間隔くらいで水平に貼り始めた
目がしばたくような細かい作業だった

1本が16mのリール6本で100m弱
結構な長さなのに、皿の上では隅っこの一部でしかない
大皿一枚張り巡らせるにはほど遠かった

我がままなことだが、貼るのをやめたくなくて
妻に頼んで銀座まで走ってもらい
伊東屋にあるだけを買い集めた

やがて貼り終えて、その上からコバルトを吹きつけた
白い皿が殆ど青い、それほどに極細の線紋になった

やがて本焼きから出してみたら
遠目には無地だが近づけば細かい紋様
それは叶った
しかし、その紋様が何かといわれると
江戸小紋のように茄子・亀・唐草・大根卸し金みたいな
はっきりしたものではなかった

ただじっと見つめていたら、何となく波に見えた
波を描いたわけじゃないが、貼り方が下手だったから
一本一本がよれて、波のように見えたのだった

ならもっと波らしく貼ればいいではないか!
波らしく見えるように貼る・・
10年がかりの改良が始まったのはここからだった
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前回書いた日本陶芸展の第17回展
一部の伝統部門に出品してみたくて
そのための苦しい2年の成果が「波状紋大皿」
未だ「糸抜き」という技法名は使っていない

一部で入選を果たすことができた
これも嬉しかった ここで通ったことが
やがて日本伝統工芸展につながってゆく
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未熟だが自分の世界を見つけた
この悦びは忘れることはできない

糸は物でしかないから
自分からアッピールしてくることはない
もしかしたらこれが大事な素材かもしれないと
気づくか気づかないかの僅かな差で
独創への道は、開かれたり閉じたりなのだ

轢かれてはならぬが、ダンプに怒鳴られたことが
気づく為に必要なものは・・
明らかに「集中」だと、教えてくれたのだ

僅かでも自分だけの世界を見つけられたら
それはもう・・実に幸運なことだと思うが
その幸運には・・相当の代賞を払わねばならない
多分・・それが一心不乱の集中のような気がする







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Commented by kuma at 2013-04-18 11:10 x
まさに、そこがスタートラインだったのですね。
しかし、そこからの努力が大変なものですね。
体力と集中力…私も養わなければ…
Commented by touseigama696 at 2013-04-18 23:58
kumaさん
ありがとうございます
公募展での挑戦は・・
やはりとても大事なものを教えてくれました
集中は仕事の質を上げるためには不可欠
質を上げようとする作業の中で
新しいヒントに気づいてきたような気がします
Commented by はるこ at 2013-04-21 22:45 x
いろんないきさつがあって今があるのですね!
「夢中」って、年と共に少なくなって来ますよね、、
先生は、夢中になれるように生まれついていることが幸いしてるんですね、、
最初は曲がるテープだったとは、、!
Commented by touseigama696 at 2013-04-22 00:43
はるこさん
ありがとうございます
幾つもの偶然に支配されてここまできてます
好きで始めたこと・・夢中になれなくなったら
潔く窯を壊すつもりでいます・・
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by touseigama696 | 2013-04-18 00:40 | ●豚児庵遺言 | Comments(4)

50歳からのプロ・・・ここでは陶芸家らしく・・


by touseigama696