木のベンチ

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医師だった親父に連れられて
聖路加病院で心臓内科を受診したのは
私が27歳・・1969年のことだった

北太平洋上の機内で心臓発作を起こし
アラスカのアンカレッジで一ヵ月も入院し・・挙句に
パリでの取材を断念して帰国したが
予後が思わしくなくて
亡父に専門医の受診を勧められてのことだった

その外来ブースでお目にかかったのが
日野原重明先生だった

「君の病名は・・心臓神経症ってやつで
今アメリカでも課題になってるほど多いんだよ
治すには運動がいい
恐がらずにスポーツしてごらん」

それが始まりで
暫らく聖路加病院に通院し
大分時間がかかったが
どうにか神経症から脱出できた

今朝のニュースで・・日野原先生の訃報を知った
1911年生まれ・・105歳の天寿
死んだ親父は1912年の生まれだったから
生きてれば104歳かぁ・・と思いながら
半世紀も前の・・あの受診の日を思い出していた

この聖路加病院に通院していた時のこと
もうひとつ忘れられないエピソードがある
旧屋時代の聖路加病院の待合のベンチが
思いがけないほど質素な木製だったことだ

何かの折りに・・看護職員に
その意外さに触れて訊ねたら

「お尻が痛くなるほど・・
この病院は患者さんを待たせませんよ!」
と云って笑った

この言葉は・・ずっと後まで頭に残った
長い心臓神経症の後遺症から逃れ
40歳を過ぎたころ・・病院新設事業に誘われ
初代の事務長に就任したが
什器備品を買い揃える仕事の度に
あの言葉を思い出したのだ

病院の居住性は贅沢な家具調度ではない
一時も早く診療を受け・・手続きを済ませて
病院を出る・・それが一番の快適なのだ

フカフカの待合椅子に大きなテレビ
診療や調剤の順番を知らせる告知板
それらは・・待つ苦痛を和らげる仕掛けでしかない

30数年も前の・・あの開院のころ
いち早くコンピューターを導入し
ドクターに専従のPCセクレタリーをつけて
同時進行で調剤・会計の業務を進行させたのも
患者を待たすな!・・あの聖路加病院の木製ベンチが
教えてくれたことだった

この世の中には・・敢えて硬いベンチを置き
その上で何が一番大事なのかを考えないと
本質を外れた方向違いの過剰サービスに
うつつを抜かすことになると・・知るべきなのだ

言うまでもなく
日野原先生は長生きだけのドクターではなかった
聖路加病院の根本に流れる医のヒューマニズム
忘れてはならないことだと・・思う



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by touseigama696 | 2017-07-18 23:00 | ●エッセイ | Comments(2)
Commented by 夢工房あすか at 2017-07-19 09:35 x
私は、日野原重明先生の著書 『人生百年 私の工夫』 を励みにして
陶芸教室を開きました。また私的な悩みごとでも、このご本に助けられました。

昨年の6月に大分市で日野原先生の 「104歳の記念講演」 が行われました。
幸いにもご講演を拝聴させていただくことができました。当日、先生は、
舞台の中央に元気に歩いて出てこられて、杖をばたっと倒されたのです。そして、
観客席に向かって “にこっ” とされたのです。すぐに万雷の拍手がおこりました。
あの時のおどけた仕草、お元気なお姿、お声が今も忘れられません。

この講演会の際に、私は失礼も省みずに、係りの方に頼んだことですが、
私の拙著 『生活にうるおいを与える食器づくり』 を渡してもらったのです。
実はこの本を出す2年前にノンフィクション的な本を初めて自費出版したのですが、
その拙著を日野原先生へおおくりしたところ、自筆の礼状のお葉書を頂いたのです。
私のような平凡な者にも、ご返信をいただいたのに大変感動しました。
日野原先生の名著 『人生百年 私の工夫』 に支えていただいたことを
私の拙著のあとがきに感謝の念として記してたんです。そして、講演会の時には、
私の当初の夢であった「陶芸の本」を出版できたことをお伝えしたかったのです。

日野原重明先生、105歳までありがとうございました。
私の座右の書 『人生百年 私の工夫』 を折々に読み返し、これからも
先生の珠玉のお言葉に “力” をいただいてまいりたいと思います。
Commented by touseigama696 at 2017-07-22 23:04
夢工房あすかさん
ありがとうございます
105歳のドクターに面倒見てもらった患者さんも多く
流石明治男の迫力でしたね
現代は人間をひ弱にしてるかもしれません
他者のために生きる・・が
実は自分を長寿にさせる原動力なのかもしれません
本を書くことも・・他者のため
大いにご活躍ください

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